予言をしたがらない先生〜当たる占い師さんとの思い出③

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会社員時代、とある仕事で予言系の女性占い師さんとやりとりをしていたことがありました。

その先生は、女性誌でも引っ張りだこの中堅占い師さんで、ベースは四柱推命等の東洋系を得意とし、一方で大運や暦を組み合わせた独自占法を駆使した予言に定評のある先生でした。またハムスター大好きな先生でもあり、事務所に行くと、いつも部屋の片隅のケージでハムスター数匹の世話をしていました。

先生の目下の興味は、ハムスターであり、年に1回程度ハムスターが寿命で亡くなると連載が止まるのが問題でした。そして私たち担当は、先生を慰めることも仕事としていました。

さて予言系の先生といいましたが──その先生曰く、予言というのはおいそれとやるものでもなく、出来るものでもなく、それなりの準備と環境が必要なのだということでした。

当時、それがあまりにももったいぶった言い方だったので、私はどうにか予言の様子を目撃したいと思い、自分の担当する仕事にかこつけて、お客さま向けのプレゼントキャンペーンの賞品に先生の予言の権利を1つ特賞として設定しました。

その企画提案をすると先生は、こちらの指示のとおり事務所にきていただけるなら問題なくやりますよ、とおっしゃっていただきました。さらに、先生とお客様の双方の同意と企画へのご理解により、私と同僚の同席も叶いました。

当日。お客様は、1人だと不安だということで、お友達と2名でいらっしゃっていました。イレギュラーな出来事でしたが幸いにして事務所は広かったので、結局そのお友達も同席することになりました。室内の窓はカーテンで遮られ、部屋にはお香がたかれ、とても良い匂いがしました。いつもは雑然としていた事務所は片付けられていて、事前に人数分の席も用意済みでした。先生のご衣装も気合の入ったものになっており、なるほど、これが雰囲気作りかと関心したことを覚えています。

いくつかの雑談を経て、ほどなくして予言を含む占いによる診断がはじまりました。相談者の希望は、彼氏との結婚時期とその後、というシンプルなものでした。先生のスタイルは、四柱推命をベースに、クリスタルの小さな麒麟を手元に置いて、それを触れながら診断するというものでした。四柱推命をやっている様子はみたことがありますが、クリスタルの麒麟はその時初めてみました。

まず四柱推命で、相談者と結婚相手との相性を見ます。相性はさほど問題のないようでした。続いてそこから、先生はクリスタルに触れながら、思案して相談者の未来を覗き見ます。先生は静な声で、間を置いて、意味深に、相談者に問いかけをするんです。それが神秘的な雰囲気なものだから、ちょっと誘導尋問的になって、相談者もホイホイと問いかけに応えます。そうすると、その幾つかの回答と、先生の長年の鑑定経験を踏まえて予言という形で、相談者に言葉を与えることができているようにみえました。大枠はそんなような流れに見えました。ここまでは、他の先生でも見たことがあります。一方で、いつ見ても凄いなと思うのは”勘”がするどくなってくると、この手の先生は本当にズバズバ物事を当てるんですよね。それが今回はだいぶ調子が良かったらしく、相談者さんの「えっなんで分かるんですか!?」の連発が印象的でした。

さて、先生、このときとても調子が良かったらしく「よかったらお友達もなにか見てあげましょうか?」と、言い出しました。まあ、それくらいは良いでしょう。相談者のお友達も無料で鑑定さしあげていました。それはそれで問題なかったのですが、話しはそれで終わりません。

「あなたたちもなにか見ましょうか?」

と我々にも話しが向けられました。予言、安売りしはじめたな──と個人的に思いました。ですが、せっかくなので占ってもらいます。同僚はなにやら満足のいく相談ができたらしく、したり顔です。そして最後に私。当時、私は悩みはそんなに無かったので、ちょっといじわるな相談をしました。母が失くしたと騒いでいた、ブローチの所在について相談したのです。失せ物、という奴です。すると、先生は嫌な顔せずに、実家の部屋の間取りを聞いてきました。間取りから、落としそうな場所を類推するのかと思いきや「家には無いわね」と応えました。それから「お仕事は何をされているの?」と尋ねられたので、身内の建築関連の事務職を手伝っていると応えました。すると、先生は言います。「その会社は事務所ある? その事務所の玄関あたりをさがしてみなさい」と言いました。私は半信半疑で、先生との対談を終え、諸々の残務を済ませた後で、夜に母にその事を伝えました。

すると翌日、母のなくしたアクセサリーは会社の事務所の玄関に敷かれた”すのこ”の下から出てきました。これには、ちょっと鳥肌が立ちました。

数日後、私は先生の事務所にお伺いする幼児があったので、その時、ブローチが見つかった話を伝え御礼を言いました。すると先生はハムスターの世話をしながら、あの日は調子がよかったの、と応えました。

しかし、再開した先生はあの人はうってかわってちょっと元気がなさそうでした。聞けば、ハムスターの一匹が元気がないのだそう。先生は悲しげにいいます「この子、最近食が細くて」あー、これは近々、仕事が滞るやつだな、と思いました。そして、おもわず失言してしまったのです。

「先生やっぱりハムちゃんが死ぬのとかもわかっちゃうんですか?」

すると、先生は目にいっぱい涙を浮かべて言いました。

「わかっちゃうのよ!冴えてると!普段はね、なるべく予言をしないようにしているの!予言をするとどんどん鋭くなるから!人間ね、わからないことがあったほうがいいのよ!だからもう今日から仕事ができません!」

先生が予言をしない理由がわかりました。そして、先生はハムちゃんの死を前倒して予見してしまったことにより、それから数週間仕事をしてくれませんでした。

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