私がある仕事で担当をしていた占い師さんの先生がおりました。
その方は、雑誌やTVに占いを提供するような実績をもった男性の先生で、書籍等もそこそこ売れており、当時勤めた会社からも占いを発注するような間柄でした。現在では、そこそこの収入がある先生でしたので、かつて対面鑑定をしていたみたいですが、その頃には占いはメディア以外ではやっていない先生でした。
さて、私は会社員時代そんな先生の担当だったのですが──私は、この先生が苦手でした。それというのも、どうもこの先生は占いやお客さんについてリスペクトを欠くんです。
ある時、会社の企画で先生が一般人を占う機会がありました。それは表向きちゃんとやっていただけたのですが、後になって「今回は疲れたので適当にやった」「もう占いをしたくないので、なるべくならやめてほしい」などと、いい出しました。そして挙げ句「占いはお遊びの道具でしかない」と言ったのです。
確かにそうかもしれません。しかし悩みを抱える相談者を雑にあつかい、あまつさえご自身が使っている占いについても貶めるようなお話は、とても気分の悪いものでした。しかしそんな先生でも取引先の相手です。私は引き続き担当をつづけていました。
それからまた別のある日のこと。会社のあるサービスの企画で、またしても先生に素人さんを占ってもらう機会が発生しました。わたしは内心嫌だな、と思っていました。どうせまた一般の方に対して雑な扱いをするんじゃないだろうか、と。
わたしは、先生のもとにイベント企画で応募のあった素人さんのお悩みリストをもって事務所に伺いました。先生に選んでもらうことにしたんです。案の定、先生は乗り気ではなくて、ぶつぶつ文句を言いながら、そのリストを見ていました。すると、ふとある方のところで手が止まりました。
それは40代くらいの女性の相談で、内容はご家族の不仲についてのものでした。先生は、その女性が書かれた手書きの相談内容を食い入るように見ています。
どうしたんですか? その人にしますか? そう尋ねると先生は「これは僕がやらなきゃいけないよね」と独り言のように言いました。
それから続けます「この女性、ヤバい奴だから僕直接会って話たいのだけど、仕事以外でそういうことできる? ご本人に直接連絡とれる?」
ヤバい? はじめ何を言っているのかと思いました。しかも企画としてはやらない上に、直接やるとは? 何を言っているんだろう? わたしはそう思いました。そして、明らかにありありと困惑の表情を浮かべた私に、先生はいいます。
「この人の悩みは、占いや人生相談では解決しない。たぶん、ご先祖さんの良くない物が絡んでいると思う」
え? と思いました。私は恐る恐る、あれ、先生って霊感でしたっけ?
聞けば、元々はそういう家系で、普段は面倒だからやらない。受け付けてもいないのだといいます。しかし、まれにこういうのを引いてしまう事があって、そういう場合は対応をしているとのことでした。
わたしは、他の素人さんの鑑定もちゃんとやる、ということを取り付けて、上司に許可をとりまず会社側からその女性に連絡をしました。それから同意をとって先生に取り次ぎました。
それから数カ月後、会社のほうにその女性からとても丁寧なお礼の手紙と菓子折りがとどきました。どうやら問題が解決したようです。わたしは、それを先生に電話で伝え、何をしたのかと聞きに行くと「ヤバイやつ」と笑ってごまかされてしまいました。
いったい何をしたんだろう。未だに疑問です。しかしそれとは別に、一つ応えてくれました。
「○○さん、ちょっと誤解しているかもしれないけどね、占いをお遊びの道具だといったのは、僕には本当にお遊びの道具なんです。僕は占いよりも”感じ”のほうが敏感なので、占いはあまり重要視していないんです」
と応えられてしまいました。どうやら、私が先生を良く思っていなかったこともお見通しだったようで、ちょっと恥ずかしかったです。